04 騎士の憂鬱

「嘘でしょ…また始末書…!」
「あーあ…。遅かったか…」
少女は大いに嘆き、青年は大いにため息をついた。
目的の場所へ付いた途端、起こった爆発。
上がる黒煙。

まさに、『彼』の仕業。

「どこの誰よ!フェディを怒らせたのは!?」
少女は嘆きつつも、怒りを顕わにした。
始末書に囲まれた日々にやっとおさらば出来たのも束の間、今回新たに大量の始末書が来ることはほぼ間違いなかった。
「…街の連中はあいつの恐ろしさをよ〜く分かっているはずだからな。また、旅の荒くれ者だろ。…まったく、何もしなけりゃ人畜無害で可愛いやつなのになぁ…って、あれ?」
青年が何かに気付き、顔を上げる。
そして、次の瞬間、驚いたように目を大きく開けた。

「…なんで、爆発したのに…酒場があるんだ?」

「え?」

その青年の言葉に、少女も顔を上げる。
すると、目の前にあったのは黒煙を上げつつも、原形をとどめたままの酒場そのもの。
自分達の目がおかしくなったのかと疑い、二人は酒場に走り寄る。
だが、そこには酒場がきちんと原型のままで残されていた。
上がる黒煙は建物全体からではなく、窓や扉と言った部分から流れているだけだ。

そして、少女があることに気づく。

「これ…魔術障壁が張られてる!」

そういって、彼女は黒煙が立ち込める酒場の中へと飛び込んだ。




「危機一髪…」
そう言って、手の中で光る光球を見つつ、サクリーフは呟いた。
ぎりぎりの所で、唱えた神聖魔術による障壁が役に立ったらしい。
酒場の中は先程の爆発の名残で、室内には黒煙とススで真っ黒になっていたが、建物全体はサクリーフの放った神聖魔術によって淡い光の壁に包まれている。
そこに目立った損傷は認められなか
ったし、被害は、皿が数枚割れた程度だ。
サクリーフは、ほっと一息ついた。
だが、それも束の間のことだった。
「畜生…この野郎!」
先程の男が既に立ち上がっていて、倒れた少年に掴みかかっていたのだ。
少年の方は、自らが起こした爆発の負荷のためか気を失っていた。

あれでは、一方的にやられてしまう!

そう思い、サクリーフが腰の剣に手をかけようとした、その時―――


「その手を離しなさい、下衆野郎」

黒い風が、サクリーフの目の前で駆け抜けた。

そして、赤と青の煌きの一閃―――

次の瞬間、男は地に倒れ付していた。




「フェディに手を出すからこうなるのよ…まったく」
倒れ付した男の側にはいつの間にか一人の少女が立っていた。
腰まで流れる髪は、見事な漆黒。
その身に纏うのも漆黒の衣装。
全てが漆黒で統一された少女の手の中には、異質な煌きを持つ刀が二振り。
右手には赤の刀を。
左手には青の刀を。
異質な雰囲気を持つ少女が、そこに―――サクリーフの目の前に立っていた。
「君は…」
サクリーフが声をかけると、少女は彼の存在に気付いたのか振り返った。
その瞳もまた、漆黒。
サクリーフは、瞳もまた漆黒だったということに驚いたが、それは少女も同じことだったらしい。
少女もまた、サクリーフを見て何かに気付き、驚きに目を見開いた。
「あなた、その白銀の甲冑…もしかして、今日来るっていう、聖騎士さん?」
白銀の甲冑は、聖騎士達の象徴だった。
だが、今着ているのは儀礼用のためのものではなく、戦闘用に作られた略式のものだったから、知る人は少ない。
しかし、この少女は、その甲冑を一目見て、彼のことを言い当てた。
その知識を持っているのならば、この少女は―――
「…もしかして、君は警備隊の隊員か?」
その言葉に、少女は頷いた。
「私はユクル警備隊隊員、セナ=ロウテンローラ。よろしくね、聖騎士さん」
そう言って、少女―――セナは、笑った。


inserted by FC2 system