05 白き世界へ向ける絶叫

景色が変わる。
無機質な石の塀がぐにゃりと歪んだ。
白い雪が吹き荒ぶ。
前が見えない。
白い雪の乱舞が視界を遮り、全てを真っ白にする。

冷たい。

雪のように冷たい何かが舞い踊る。
時にそれは体を撫でる様に、激しくぶつかるように過ぎていく。
目が開けられなくなって、目を瞑る。
けれど、いつしかそれは止み、世界はただ沈黙のみがあった。

ただ静寂のみの支配。

そこに他の音はない。
ただあるのは、自分の吐息。

恐る恐る目を開く。
そして、そこに表れたのは、白い世界。
全てが白く、他には何もなく。
ただ、『白』の世界が広がって。

静寂と白の支配。

そこに息をするものは自分の他には何もなかった。
在るのは、ただ『自分』という個の存在のみ。
そのことに気づき、恐怖する。
誰もいないということが、怖くて。
本当に一人になってしまったと、気づきたくなくて。

…どうして気づかなかったのだろう?

母も父も失ったけれど、私にはまだ失っていないものはたくさんあったのに。

お気に入りの服が在った。
今まで育ててきた鉢植えが在った。
仲のよい友達が在った。
心配してくれる親しい人々が在った。
母と父の思い出の残る、写真が在った。

私という『個』を特定できる全てが、あの世界にはあったのに。

自分の悲しみを騙してくれるやさしい嘘が、あの世界には溢れていたのに。

それなのに。

―――この世界は、何?

自分以外存在するものはなく、また自分を特定することができる何かさえなく。

―――私は、誰?

『個』を特定するものは、全てない。
全てなくなった。
この白い世界を、私は受け入ることができない。
私を拒絶するこの白い世界は、私の存在できる場所じゃない。

嫌だ。

こんな世界に、居たくない。

こんな場所に、私は―――――

「置き去りになんてされたくない…!」

何もない世界で、少女は絶叫する。
世界にそれは、響き渡った。


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