景色が変わる。
無機質な石の塀がぐにゃりと歪んだ。
白い雪が吹き荒ぶ。
前が見えない。
白い雪の乱舞が視界を遮り、全てを真っ白にする。
冷たい。
雪のように冷たい何かが舞い踊る。
時にそれは体を撫でる様に、激しくぶつかるように過ぎていく。
目が開けられなくなって、目を瞑る。
けれど、いつしかそれは止み、世界はただ沈黙のみがあった。
ただ静寂のみの支配。
そこに他の音はない。
ただあるのは、自分の吐息。
恐る恐る目を開く。
そして、そこに表れたのは、白い世界。
全てが白く、他には何もなく。
ただ、『白』の世界が広がって。
静寂と白の支配。
そこに息をするものは自分の他には何もなかった。
在るのは、ただ『自分』という個の存在のみ。
そのことに気づき、恐怖する。
誰もいないということが、怖くて。
本当に一人になってしまったと、気づきたくなくて。
…どうして気づかなかったのだろう?
母も父も失ったけれど、私にはまだ失っていないものはたくさんあったのに。
お気に入りの服が在った。
今まで育ててきた鉢植えが在った。
仲のよい友達が在った。
心配してくれる親しい人々が在った。
母と父の思い出の残る、写真が在った。
私という『個』を特定できる全てが、あの世界にはあったのに。
自分の悲しみを騙してくれるやさしい嘘が、あの世界には溢れていたのに。
それなのに。
―――この世界は、何?
自分以外存在するものはなく、また自分を特定することができる何かさえなく。
―――私は、誰?
『個』を特定するものは、全てない。
全てなくなった。
この白い世界を、私は受け入ることができない。
私を拒絶するこの白い世界は、私の存在できる場所じゃない。
嫌だ。
こんな世界に、居たくない。
こんな場所に、私は―――――
「置き去りになんてされたくない…!」
何もない世界で、少女は絶叫する。
世界にそれは、響き渡った。