08 告げられた禁忌

「にしても、今日は派手にやったなぁ、エディエさん」
「あれはやりすぎだと思うんだが」
傍目から見ていてひやりとした場面を思い出しながら、サクリーフはフェンディッドの話に相槌をうった。
日が落ち、ランプの明かりだけが光源の薄暗い詰め所には今、彼ら二人しかいなかった。
残っている処理を済ませるために、彼らだけ残ったのだ。
サクリーフの言葉にフェンディッドは苦笑しながら、地図を広げた。
「さて、後はこれだけだけなんだけど…」
広げた地図はこの近辺の地形図だ。
使い古された黄ばんだその地図に、真新しい赤の印がいくつか書き込まれていた。
そのほとんどが街や主要な街道沿いに近い場所に記されている。
フェンディッドはサクリーフにその印を指し示しながら、目を細めた。
「他の隊員にまだ言っていない事なんですが、貴方には先に報告しておきます」
フェンディッドは、地図に記されたものよりも多い印を、青いインクで書き加えていく。
それは全て、ある一箇所を囲む様に記されていく。
サクリーフは、その数の多さに驚きつつ、顔をしかめた。
「…どういうことだ。あんたはさっき、異常の原因は分からないといっただろう」
「まぁ、ちょっと事情がありまして」
フェンディッドは最後のひとつを書き終わる、青い印で囲まれたように見える一点を指で指し示す。
「明らかに原因はこの場所にあるといってもよいでしょう。ここ数週間でこの周辺だけ明らかに魔物の数が多い」
フェンディッドは今まで記した印を一本の線でつなげていく。
円状に囲まれたそのほぼ中央に位置する場所。
そこは、木々が多く密集する森。
「貴方には、知らないからこそ先に言っておきます。絶対に、セナにこの森の名を出さないでください」
フェンディッドはそう言って、サクリーフを見つめた。
彼がサクリーフに向ける眼差しと先刻の言葉には、牽制ともいえる警告が含まれている。
「この森に、何があるというんだ」
「僕の口からは、詳しくは言えません。ただ、お願いですからこの森のことを彼女に言わないでください」
それは説明になっていない。
サクリーフはその言葉を呑み込み、ため息をつく。
若干の居心地の悪さを感じながら、サクリーフは地図に視線を戻す。
この街から少し離れた場所にある、森。
地図にはその名すら記されず、かき消された跡ばかりが残っている。
「この森の名は」
「『暴寂の森』。荒んだ静寂に包まれた…呪われた森。それが、この場所の名です」
警備隊では口にしてはならない、禁忌の場所。
その名は、禁忌であり、彼らが慈しみ守るべき者に、その名を口にすることを許されない。
どこにでもそういったものはある。
サクリーフはフェンディッドに了解したと、小さく呟いた。
そのことを後になって後悔する等、思いもせずに。



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