11 傷痕に残された意味

 呑気な小鳥の囀りで、目が覚めた。
窓から漏れる太陽の光が温かい。
まるで冬眠から覚めた熊のように、サクリーフはのそりと起き上がる。
そして、一時して盛大にため息をついた。
「…また、えらく懐かしい夢だな、おい…」
 そう言って、サクリーフは前髪をかき上げた。
あれから、もう十数年。
大分割り切ったはずだった。
けれど、今でも本能は告げる。

 “奴らを滅ぼせ”と。
 お前には、そのための力があると。

「俺も、まだまだってことか…」
 サクリーフは、またため息をつく。
割り切ったことでも、それは必ず心にしこりを生む。
選択しなかった、ありえない未来を指し示し、自らに問いかけるのだ。

 “それで本当によいのか”と。

 問いかけ続けるのだ、ずっと。




 ユクルの警備隊の面々の朝は、比較的早く始まる。
早番の者以外は、全員で朝食を取って出勤するのが慣例だ。
何でもラギエルいわく、『局長のこだわり』でそうなっているらしい。
 そして、この局長のこだわりは他にもある。
例えば、隊員全員が局長の家である領主館に住むことになっている。
そう、何を隠そう、警備隊の局長はこのユクルの領主その人だった。
元々局長とセナは父娘2人なので、大きな領主館は広すぎる。
ならお前らも住め、ということで隊員の宿舎にしてしまったらしい。
(…なんか、聞いている限り、貴族らしからぬ人だよなぁ…)
 サクリーフはまだ局長に会ったとはない。
だが、その人となりは他の隊員の話で少しずつ分かってきた。
曰く、セナの父親で、貴族らしからぬ思想の持ち主で、義理人情に厚い、といったことなど。
非常に柔軟な考えを持ち、おもしろい人物。
早く会ってみたいものだ、と考えながら、サクリーフが食堂の扉を開けた時だった。
 身体が沈みこむような重圧がサクリーフを襲った。
「…!?」
 両肩に何か重りが圧し掛かるようだった。
だが、実際にそこには何もない。
とてつもなく大きな悪寒というのだろうか。
(なんだ…!?)
 まるで、押しつぶされるような感覚。
空気自体が重いかのように、身体に纏わりつく。
不快感といえるほど、生易しいものではない。
明らかに、それは何者かの悪意によるものと思い当たれる。
そして、それが“発生”しているのは―――
(……セナ!?)
 思った言葉は、声にならなかった。
朝のまぶしい光が差し込む窓の側に、セナが佇んでいる。
本来なら、ただそれだけの光景。
この後、朝の挨拶や他愛も無い話をし合って、席に着き、使用人のナナラが運んでくる朝食を食べる。
いつもなら、そうやって過ぎていく時間。
それなのに、いつもと違うこの空気と気配。
 その原因は―――――――セナ?
「…セ、」
 身体に纏わりつく、圧迫感を振り切り、セナに声をかけようとしたその時―――
「今帰ったぞ!ただいま、我が家よ!」
 それはうるさいほどに大きな声で、遮られた。



inserted by FC2 system