呑気な小鳥の囀りで、目が覚めた。
窓から漏れる太陽の光が温かい。
まるで冬眠から覚めた熊のように、サクリーフはのそりと起き上がる。
そして、一時して盛大にため息をついた。
「…また、えらく懐かしい夢だな、おい…」
そう言って、サクリーフは前髪をかき上げた。
あれから、もう十数年。
大分割り切ったはずだった。
けれど、今でも本能は告げる。
“奴らを滅ぼせ”と。
お前には、そのための力があると。
「俺も、まだまだってことか…」
サクリーフは、またため息をつく。
割り切ったことでも、それは必ず心にしこりを生む。
選択しなかった、ありえない未来を指し示し、自らに問いかけるのだ。
“それで本当によいのか”と。
問いかけ続けるのだ、ずっと。
ユクルの警備隊の面々の朝は、比較的早く始まる。
早番の者以外は、全員で朝食を取って出勤するのが慣例だ。
何でもラギエルいわく、『局長のこだわり』でそうなっているらしい。
そして、この局長のこだわりは他にもある。
例えば、隊員全員が局長の家である領主館に住むことになっている。
そう、何を隠そう、警備隊の局長はこのユクルの領主その人だった。
元々局長とセナは父娘2人なので、大きな領主館は広すぎる。
ならお前らも住め、ということで隊員の宿舎にしてしまったらしい。
(…なんか、聞いている限り、貴族らしからぬ人だよなぁ…)
サクリーフはまだ局長に会ったとはない。
だが、その人となりは他の隊員の話で少しずつ分かってきた。
曰く、セナの父親で、貴族らしからぬ思想の持ち主で、義理人情に厚い、といったことなど。
非常に柔軟な考えを持ち、おもしろい人物。
早く会ってみたいものだ、と考えながら、サクリーフが食堂の扉を開けた時だった。
身体が沈みこむような重圧がサクリーフを襲った。
「…!?」
両肩に何か重りが圧し掛かるようだった。
だが、実際にそこには何もない。
とてつもなく大きな悪寒というのだろうか。
(なんだ…!?)
まるで、押しつぶされるような感覚。
空気自体が重いかのように、身体に纏わりつく。
不快感といえるほど、生易しいものではない。
明らかに、それは何者かの悪意によるものと思い当たれる。
そして、それが“発生”しているのは―――
(……セナ!?)
思った言葉は、声にならなかった。
朝のまぶしい光が差し込む窓の側に、セナが佇んでいる。
本来なら、ただそれだけの光景。
この後、朝の挨拶や他愛も無い話をし合って、席に着き、使用人のナナラが運んでくる朝食を食べる。
いつもなら、そうやって過ぎていく時間。
それなのに、いつもと違うこの空気と気配。
その原因は―――――――セナ?
「…セ、」
身体に纏わりつく、圧迫感を振り切り、セナに声をかけようとしたその時―――
「今帰ったぞ!ただいま、我が家よ!」
それはうるさいほどに大きな声で、遮られた。