□違えられた約束 重ねられた嘘□
「どうして」
何故、私を庇ったりしたの。
そう問うても、既に返事は無かった。
その手に抱いた彼の身体からどんどん熱が奪われ、冷たくなっていくのがわかる。
閉じられた瞳はもう一度開かれることもなく、固く閉じられた。
そのことに気づいた時、不意に自分の瞳から涙が零れ落ちた。
こんなはずじゃなかった。
こんな結末を望んでなどいなかった。
目指したのは、自分と彼と…彼女が、笑いあって幸せに暮らせる『世界』を作ること。
そのために、自分はこの忌み嫌われた力を封印しようとしていたのに。
それなのに、何故こんなことに。
冷たくなっていく彼の身体を強くかき抱き、嗚咽を漏らす。
彼を愛していたのだ。
だから、この選択をしたのだ。
<約束だよ。ずっと3人で一緒にいるって…約束だからね>
旅立つ前に、泣きながらそう呟いた彼女の約束ももう守れない。
彼はもういない。
彼が失われた今、もうその約束を果たすことさえ出来ない。
彼を失い、彼女との約束さえ守れないのだ、自分は!
誰よりも大切な『彼』と『彼女』。
それなのに、二人を裏切ったのは紛れも無い自分。
「嫌よ…」
どちらの約束も果たせなかった、醜い自分。
「そんなの、嫌…!」
裏切り者。
「嫌よ、こんな『運命』、認めたりなんかしたくない!」
声は願いとなり、そして…。
「では、『契約成立』としよう……ねぇ、黒き破壊の神の娘よ」
一人の魔族が、それに答えた。
青年の身体は再び『命』を宿した。
願いは現実となった。
けれど、そこに宿った命は契約の魔族のもの。
現実は約束を侵した。
けれど、それで彼女との『約束』が守れるならばそれでいいと思った。
そして、積み重ねられていく罪と罰。
終わらない、嘘の連鎖。
ああ、けれど。
それでも、私は。
私は。
私は、嘘を重ねていく。
違えられた約束を守るために。
ねぇ、私を許さないで。
貴方という存在を偽ってしまう私を。
ねぇ、私を許さないで。
貴女との約束を破り、嘘を重ねた私を。
絶対に、私を許さないで。
私はそれでも貴方達が大好きで愛していて…どうしようもないのです。
どうしてもこの選択しか…選べなかったのです。
この3人の話は私の物語の中でも書きたい話の一つです。
しかし、おそらくその断片がある物語に出てくるだけで終わるとは思います…(汗)
あるキャラクターの根底にある物語のため、いつかは日の目を見せたいところではあるのですけれど。
まぁ、ぶっちゃけ連中の名を出すだけで大いなるネタバレ街道を突っ走ることになりますので、この辺で割愛。
約束を守るために愛する者達を裏切った娘の結末は、いつか別の物語で明かしたいと思います。