一瞬だった。
その命が奪われたのは、一瞬だった。
自分が呆然としている間に、全ては終わっていた。
涙を流す、親戚の叔母さんや叔父さんたち。
何か意味の分からない言葉を述べていく、大人達。
周りを埋め尽くした、白い菊の花。
対照的な白と黒の幕。
人々に運び出されていく、二つの大きな箱。
陶器が割れた音が、二回も聞こえた。
そして、何もかも終わった後に残されたのは、二人の男女の写真。
―――これは何か、悪い夢だ。
そう思いたい自分がいる。
―――お父さんもお母さんも、きっともうすぐ帰ってくる。
そう信じている自分がいる。
―――お土産にケーキを買ってきてくれるって、約束したもの。
何かに縋りたい自分がいる。
―――きっと、笑顔で…玄関を開けて、ただいま…って。
現実を否定して…思い出に縋りついた惨めな自分が…そこに。
「…嘘…だもん。お父さんも、お母さんも、もう…いないなんて」
なんで、私だけ。
なんで、私だけこの世界に置き去りにされなければならない?
外は、雪が降っていた。
一面真っ白な銀世界が広がっていた。
何も無い白が、まるで自分のように思えた。
世界が白く染まった様は、からっぽな自分の心にそっくりだ。
窓を開けて、外へ出る。
冷たい雪に、じかに触れる。
それは痛いほどに冷たかった。
―――今の、自分の心と同じ。
「…お母さん、お父さん…」
二人を呼んでも、もうそれに応える者はいない。
ただ、自分がひとりになったことを強く感じるだけ。
それなのに。
「せな」
自分を、呼ぶ声がして。
その声は、紛れもなく――
「お母さん?」
自分は、その声に後ろを振り向いた。