00 世界からの拒絶

一瞬だった。
その命が奪われたのは、一瞬だった。

自分が呆然としている間に、全ては終わっていた。
涙を流す、親戚の叔母さんや叔父さんたち。
何か意味の分からない言葉を述べていく、大人達。
周りを埋め尽くした、白い菊の花。
対照的な白と黒の幕。
人々に運び出されていく、二つの大きな箱。
陶器が割れた音が、二回も聞こえた。

そして、何もかも終わった後に残されたのは、二人の男女の写真。

―――これは何か、悪い夢だ。
そう思いたい自分がいる。

―――お父さんもお母さんも、きっともうすぐ帰ってくる。
そう信じている自分がいる。

―――お土産にケーキを買ってきてくれるって、約束したもの。
何かに縋りたい自分がいる。

―――きっと、笑顔で…玄関を開けて、ただいま…って。
現実を否定して…思い出に縋りついた惨めな自分が…そこに。

「…嘘…だもん。お父さんも、お母さんも、もう…いないなんて」

なんで、私だけ。
なんで、私だけこの世界に置き去りにされなければならない?

外は、雪が降っていた。
一面真っ白な銀世界が広がっていた。
何も無い白が、まるで自分のように思えた。
世界が白く染まった様は、からっぽな自分の心にそっくりだ。

窓を開けて、外へ出る。
冷たい雪に、じかに触れる。
それは痛いほどに冷たかった。
―――今の、自分の心と同じ。

「…お母さん、お父さん…」
二人を呼んでも、もうそれに応える者はいない。

ただ、自分がひとりになったことを強く感じるだけ。

それなのに。

「せな」

自分を、呼ぶ声がして。
その声は、紛れもなく――

「お母さん?」

自分は、その声に後ろを振り向いた。


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