02 騎士の憂鬱

あれから数時間後。

やっとサクリーフは自分が左遷された地へとやってきた。
そして、最初に抱いた感想は。

「…ど田舎……」

そこに広がるは、見事な田園風景と、水平線まで見える広大な海そのもの。
その間に、街らしきものが見えるが、王都に比べれば小さい。
それもかなり小さい。
サクリーフは再びため息をつく。
そして、愚痴を言いつつも、その街へと向かって歩き出すのだった。




街の中を歩き回ってみてもやはり持った感想は『田舎』ということだけだ。
王都の家や店は皆、赤や青の色とりどりのレンガが壁面と屋根を覆い、柱や表の玄関口には皆細かな彫刻を施されたりやセンスのよい飾り付けが為されていた。人々が頻繁に行き交い、夜でも人通りが絶えることはなかった。家々を結ぶ道も煉瓦が敷き詰められ、きちんと整備されていた。
それなのに、この街はどうか。
海に面している建造物は、皆白く四角く…サクリーフ的に『箱』だと思えてしまうものばかり。
無骨な家々には飾りひとつなく、時たま赤や黄色の塗料で何か分からない模様が描いてあるだけだった。
その模様さえ、王都の洗練された芸術を見てきたサクリーフにとっては、不格好に見える。
道もきちんと整備されているとは言い難かった。
煉瓦が敷き詰められているところなど大通りくらいで、他は道をならしているくらいが精々だ。

そして問題がもうひとつ…。

「道が分からん…」

サクリーフは手元にある地図をもう一回じっくりと見直した。だが、それでも自分の現在位置がわからない。
つまりは、完全に迷っていたのである。
「王都ならこんなこともなかったんだ…!こんな道に迷うなんて…!」
サクリーフは方向音痴というわけではない。
断じてない。
だが、迷っていた。
どうしようもないほどに、自分がどこにいるかわからない。周りには似たような白い石造りの建物が並んでいるだけで、目印になるようなものは一切なかった。
「どうしろってんだよ…」
王都から左遷されて、あまつさえ赴任してきた街で道に迷う。
最悪だった。
どう考えても最悪だった。
そう思ってサクリーフが、何度目になるか分からないため息をついたとき―

「きゃあああっ!」

悲鳴が、聞こえた。
女の悲鳴が、はっきりと聞こえた。
次いで、男達の罵声や、ガラスの割れる音が、辺りに響く。
「酒場で乱闘だー!」
誰かが叫ぶ声がした。
女子供はある場所から走って逃げ、野次馬な男達がある場所へと集まっていく。
そして、サクリーフも悲鳴を聞いた瞬間に走り出した。

その一点―――酒場へと。


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