夢を見る。
遠い昔の夢を。
殺した。
奴らが殺したのだ。
あの優しい人達を。
自分に対し、初めて優しくしてくれた、彼らを。
「許さない…!」
奴らに対する怒りと、彼らを守りきれなかった自分に対しての怒り。
湧き上がる感情という名の奔流。
ただ、くやしかった。
そこは、小さな村だった。
地図に載っているかさえ定かではないほどに、小さな村だった。
けれど、飢えと渇きに喘ぎ、苦しみながら彷徨っていた自分を、彼らは受け入れてくれた。
誰かが、水を飲み込む力さえなくしていた自分の唇を湿らせてくれた。
誰かが、傷だらけの自分の身体に包帯を巻いてくれた。
誰かが、高熱を出した自分にずっと付きっ切りで看病してくれた。
彼らは、自分が今まで出会った誰よりも、優しかったのだ。
「許さない…!」
それを、殺したのは黒い悪魔達。
人を殺し、奪うことを好む、異形の輩。
自分が最も嫌い、憎んでいる、『魔族』という輩。
『破壊』に連なる神々によって作られた、本来この世界に存在してはいけなかったもの。
「滅ぼしてやる…!」
本来存在してはいけなかったのなら、何故今ここに奴らが存在できるのか。
何故、何の罪もない村人達が命を奪われなくてはならなかったのか。
分からない。
でも、今、この身に宿るのは、奴らに対する憎悪のほかないかった。
大切だった者達を奪われ、もう何もない自分にとって、それだけが、生きる理由になる。
奴らに滅びを。
奴らに嘆きを。
それだけが、生きる理由になるはずだったのだ。
「それだけでは虚しいよ、少年」
寂しげな声が、後ろから聞こえた。
その声に驚き、自分は後ろを振り向いた。
「滅ぼすだけでは、何も変わらない。ただ虚しさが残るだけだ」
そこにいたのは、深緑のフードを被った男。
「確かに、君には奴らを『滅ぼせる』だけの『力』がある」
男は、壊れた家屋の瓦礫の上を歩き、自分に近づいてきた。
「けれど、それで奴らを殺しても、君は救われないし、ここで死んだ人々が生き返るわけでもない」
言い聞かせるような声が、妙に気に障った。
「なら、どうすればいいんだよっ!?」
男が言っていることは、奴らを殺しても何の意味もないと言っているのと同じだった。
納得できない。
今まさに生きる理由を彼は見つけたのに、それをすぐに彼によって壊されてしまう。
そのことが、許せなかった。
「もう、僕には何もないんだ!もう、それ以外に生きる理由が見つからない!」
憎悪しかない自分に、他の何を見出せというのか。
もう、自分は決めてしまったのだ。
憎悪以外の理由なしには、もう前に進めない。
理由なくして、もう、自分は、生きることができない。
それなのに、この男は。
「なら、他の『理由』をあげよう。君の生きる理由を。その憎悪の果ての、対極にある答えを…君が、自分自身を見つけるための、道を」
そういって、自分に笑いかけたのだ。
それは、この村の人たちと同じくらい、暖かなもので。
優しくて。
「君が復讐に生きることなど、誰も望んではいないよ。きっと、君の両親も、この村の人々とて、それを望みはしない。そして、私もね」
男が、自分の頬に手を触れた。
暖かかった。
それは、人の温もりだった。
自分が求めて止まなかったものが、そこにあった。
「遅くなって悪かったね。…私は、君を迎えに来たんだ、サクリーフ」
そういって、男は再び自分に笑いかけた。